2021年5月4日火曜日

補9 品令  急雨驚秋曉

 
 品令    李清照
急雨驚秋晚、今歲較秋風早。  (晚=曉)
一觴一詠、更須莫負、晚風殘照。
可惜蓮花已謝、蓮房尚小。
汀蘋岸草、怎稱得人情好。
有些言語、也待醉折、荷花向道。
道與荷花、人比去年總老。
        

《和訓》
急なる雨の秋晩を驚かす、今歳較ぶるに、秋風の早し。
一觴に一詠し、更に須(すべから)く晩風残照に負くる莫(な)かるべし。
蓮花已に謝(しぼ)みしを惜しむべし、蓮房は尚(なほ)小さし。
汀(なぎさ)の蘋(うきくさ) 岸の草、怎(いか)に人情の好ろしきに稱し得む。
些(わづ)かの言語有り、也(ま)た待ちて荷花を酔ひ折りて、向道(した)ふ。
荷花に道(い)ひ与(あた)ふ、人は去年(こぞ)に比して総(おしな)べて老ひぬと。


《語釈》
・急雨:急に降り出す雨。にわか雨。驟雨(しゆうう)。
・驚:驚かす。目をさまさせる。
・晚:日暮れ。夕方。
・觴:古代の杯。
・觴詠:酒を飲み詩歌を吟ずること。
・更:(下に打ち消しの語を伴って)全く。全然。決して。
・須:…すべきである、…しなければならない。
・莫: …するなかれ。
・負:敗れる、負ける。
・殘照:日没の輝き。
・蓮花:ハスの花。
・蓮房:ハスの実の入っている花托(かたく)。
・謝:(花や葉が)散る、しぼむ。
・汀蘋:水辺のうきくさ。
・怎:どうして、どのように。「如何」の口語。
・稱:讃える。称讃する。ぴったり合う、マッチする。
・人情:気持ち。人間としての感情。
・些:すこし、いささか。
・言語:「げんぎょ」「ごんご」。ことば。ここは詩句の意か。
・也:また。「亦」
・荷花:ハスの花。はす・はちすは、葉を荷といい、実を蓮といい、根を藕という。
・向道:向往と同じか? あこがれる。想い慕う。「道」は、思う、思い込む。言う。
・道與:言い与える。
・總:すべて、みな。


《詞意》
秋の夕暮れ 突然に降り出した雨に驚かされましました。
その涼しさ! 今年はいつもより秋風の訪れが早いようです。
お酒を一杯飲んでは歌をまた吟じています、決して暮れ方の風や夕日の影に負けまいと。
惜しいことにハスの花はすでにしぼんでしまいましたが、ハスの実はまだ小さいままです。
水際に浮かぶ浮き草や岸辺の草がどうして心地よく心に寄り添い得るでしょう。
出来た詞はわずかなもの。待っても酔うしかなく、ハスの花を折って想い慕うしかありません。
ハスの花を手に想うことといえば、私が去年に比べて只ただ老いたということばかりです。


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