2021年5月3日月曜日

39-滿庭芳・梅花落

 
 滿庭芳    李清照

小閣藏春
閑窗銷晝
畫堂無限深幽。
篆香燒盡
日影下帘鉤。
手種江梅更好    (更=漸)
又何必 臨水登樓
無人到
寂寥恰似 何遜在楊州。  (恰=渾)

從來
如韻勝  (如=知)
難堪雨藉   (堪=禁)
不耐風揉。  (揉=柔)
更誰家橫笛
吹動濃愁
莫恨香消玉減  (玉=雪)
須信道 掃跡難留。 (掃跡=跡掃)(難留=情留)
難言處
良窗淡月
疏影尚風流。
   
    ( )内は異本
    (詞牌を「滿庭霜」とするもある。「殘梅」と題するもある)

《和訓》
小閣は春を蔵し
閑けき窓に昼を銷す
画堂 限り無く深幽なり。
篆香 焼き尽くし
日の影 簾の鉤(かぎ)に下る。
手づから種(う)えし江梅(みずべのうめ)の 更に好ろし
又何ぞ必しも 水に望み 楼に登らむ
人の到る無く
寂寥 恰(あた)かも似たり 何ぞ楊州に在るに遜(ゆづ)らん

従来
韻に勝(すぐ)るる如きも (韻に勝(すぐ)るるを知るも)
堪え難きは雨の藉(みだれ)
耐えざるは風の揉(みだれ)。
更に誰が家の横笛ぞ
吹き動くは濃き愁ひ
恨む莫(なか)れ 香消え玉減するを
(すべか)らく信じ道(い)ふべし 掃跡の留め難きを。 (掃跡情を留むと)
言ふ処難し
良窓淡月
疎影 尚(な)ほ風流なるは。


《語釈》
・小閣:小さな閨閣(婦人の居室)・藏:蔵する。中に含みもっている。
・閑:ゆったりと落ち着いてしずかなさま。・銷:消す。日時を過ごす。暮らす。
・窗:窓。・畫(画)堂:絵画で飾った部屋。画室。アトリエ。
・深幽:ひっそりと静かで奥深い。
・篆香(てんこう):盤香のこと。渦巻状の香。
・手種:手ずから植える。あるいは親株の意か。
・江梅:庭の水辺の梅。あるいは梅の一品種の名、(種を遺しておけば野生で殖え、またの名を「直脚梅」「野梅」という。水際におもむきある。花はやや小さくして疎ら、痩せているので奥ゆかしい雰囲気がある。香は他種にくらべてもっとも清すがしく、実は小さくて硬い)。
・何必:必ずしも…するには及ばない。なんぞかならずしも…せむ。
・無人到:人の訪れがない。
・寂寥(せきりょう・じゃくりょう):ものさびしいさま。ひっそりしているさま。寂寞(せきばく)。
・恰似:まるで…にそっくりだ。まるで…のようだ。・遜 :ゆずる。劣る、及ばない。
・楊州:江蘇省揚州、名園の多い痩西湖をさす。
・從來:以前から今まで。・韻勝:風雅、幽雅。
・藉:乱れているさま。・揉:みだれまじる。
・橫笛:漢代の「横笛曲」にある「梅花落」という笛曲。
・掃跡:はらいきよめた跡。全く尽きて残るもののないさま。絶跡。(香や散った梅だけでなく夫をはじめ全てを失った想いが込められている)
・疏影:まばらな影。特に、枝のまばらな木の影。

《詩意》
小さな私の部屋は春の気配を留めて
ひっそりと翳る窓辺に昼を過ごしていました。
アトリエは この上ない静けさの中にあり
いつしか渦巻く香は 燃え尽きて
日の影が 簾の鉤(かぎ)にかかるころおい
手植えの江梅が 一層好い風情を見せています。
どうしてわざわざ 水に望み 楼に登ることがありましょう。
訪れる人もなく
ひっそりと静まりかえる様子は まるで痩西湖の庭にいるよう どうして楊州にいるのに劣るといえましょう。

昔から
風雅なものといわれますが
それでも雨がみだれ降るさまは堪え難く
風がみだれ吹くさまは耐えられないものです。
その上どこからか「梅花落」という笛の音が流れきて
濃い愁ひにつつまれます。
けれど香が消えてしまったことを恨むことはありません
言うまでもなく、みな残るものなく尽きて 全て留め難いのです。
さらに言い表わし難いのは
窓べの淡い月
まばらな枝の影がますます風流なことです。


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