2021年5月3日月曜日

37-行香子・秋光

 
 行香子    李清照

天與秋光 轉轉情傷 
探金英知近重陽。
薄衣初試 綠蟻新嘗
漸一番風
一番雨
一番涼。


黃昏院落 淒淒惶惶
酒醒時往事愁腸。
那堪永夜 明月空床。
聞砧聲搗
蛩聲細
漏聲長。


《和訓》   
天に秋の光り
転転として情(おもひ)傷つき
(こがね)の英(はなぶさ)を探りて重陽の近きを知る。
薄衣(あきのうすぎぬ)を初めて試み
綠蟻新たに嘗(あじは)ひしに
(やうや)う 一番風ふき
一番雨ふり
一番の涼しさ。

黄昏(たそがれ)の院落
凄凄惶惶(せいせいこうこう)として
酒醒むる時 往事(すぎしこと)の愁腸(うれひふかし)。
(なん)ぞ永き夜に堪えんや
明月の床に空し。
(きぬた)(たた)く声を聞き
(こほろぎ)の声細ければ
(も)るる声の長し。
 

《語釈》・轉轉:だんだん、いよいよ。うたた。心が深く感じ入るさま。もだえるさま。
・金英:ここは茱萸(しゅゆ)の実をさす。 ・英:花。はなぶさ。
・重陽:重陽の節句、九月九日。中国ではこの日、茱萸(日本では「春黄金(はるこがね)」、秋にはグミによく似た赤い実を付けることから「秋茜(あきあかね)」とよぶ)を袋に入れて(あるいは髪に茱萸の実を挿して)丘や山に登ったり、菊の香りを移した菊酒を飲んだりして邪気を払い長命を願うという風習があった。元は晩秋の頃の行事。
・綠蟻:新酒。新酒の表面が泡立ったようすを蟻の群れにたとえて。
・嘗:なめる。食べてみる、味をみる。
・漸:次第に、だんだん。ようやく。やっと。
・院落:塀で囲まれた中庭。
・淒淒:ものさびしく、いたましいさま。
・惶惶:不安なさま。おそれるさま。おどおどしている、びくびく落ち着かない。あわてる。
・往事:過ぎ去った昔のこと。
・愁腸:うれえ悲しむ心。愁心。
・那堪:なんぞ…に堪えん(や)。「那」は、なんぞ。いかんぞ。
・明月:曇りなく澄みわたった満月。・床:ベット。
・搗:たたく。(砧(きぬた)で)衣を打つ。 ・蛩:こおろぎ

《詩意》
空には秋の光りが満ちて
いよいよ心にしみて寂しい想いに傷つくばかりです。
茱萸の実の実りを見ると重陽の節句の近いことが知られます。
秋の涼しさに、薄衣を初めて重ね羽織ってみます。
綠蟻の浮かぶ新酒を初めて味わってみます。
ようやく 秋一番の風がふき
一番の雨がふり
一番の涼しさがおとずれました。

たそがれの中庭は
わびしく心もとなく
お酒が醒めた時は 過ぎにしことを思って愁いに沈んでおりました。
どうして秋の永い夜に堪えられましょう
明るい月影が寝所に虚しく射し込んで
砧(きぬた)で衣を打つ音を聞くなかに
こほろぎの声が細やかに響きます。
この寂しさに思わずもれる私の嘆きも絶えることがありません。 


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