如夢令 李清照
昨夜雨疏風驟
濃睡不消殘酒
試問捲簾人
却道海棠依舊
知否
知否
應是綠肥紅痩
(「春晚」と題するもある)
《和訓》
知るや しらざるや
まことに 知らざるや
応に是れ 緑の肥えて
(更新・08.3.23)
《語釈》・疏:まばらである。
・驟:にわか。すみやか。
・濃睡:深い眠り。
・不消殘酒:昨夜飲んだ酒の酔いが消えず残っていること。
・試問:こころみにとう。ききますが。
・卷簾人:簾を巻く人。婢。侍女。実際に使用人がいての問答かどうかは別として、問答のおもしろさを詠い込んでいる。卷簾人は「夫」と見る説もあり、若い夫婦の会話と見るとまた違う味わいがある。
・却:でも。なのに。けれども。意に反して。逆接の関係を示す。
・道:いう。のべる。
・海棠:カイドウ。淡紅色の花を春先につける。玄宗皇帝が、酔った楊貴妃を評した「海棠睡(ねむ)り未(いま)だ足らず」という故事から、眠花(ねむりばな)、眠れる花ともいわれ、美人の比喩によく使われる。花柄が長く、花が下向きに咲く。ほんのり赤く染まったまぶたを伏せているような優艶な風情がある。
・依舊:旧による。昔のまま。変化のないこと。
・知否:しるや いなや。「否」は、前述の事柄を疑問文にする働き。
・應是:まさに これ。きっと。ちょうど。
・是:(語気を強めて)確かに…だ。
・緑肥紅痩:緑の葉が茂り、花びらが散って花の赤い色が減ったこと。擬人法で雨後の海棠のようすを表した有名な一節。
《詞意》
昨日の夜、雨はまばらでしたが、風は強く吹いている様子でした。
ぐっすり眠りましたが、深酒が過ぎたのでしょうかまだ酔いが消えません。
床に臥したまま、簾を巻きあげに来た侍女に聞いてみます。
「海棠の様子はどう? 風で散ってしまいましたか」
それなのに「花は散っていませんよ。大丈夫です。」という答え。
「本当に、外の様子ちゃんと見てくれました? 海棠がどれか分かっていますよね?」
きっと昨日に比べれば、雨に洗われて葉の緑は増し、風に花びらが散って花の赤い色は減っているでしょうに。
・「花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに」と嘆じた小野小町の想いを連想させる。
《解説・鑑賞》これは北宋が亡びる予兆はあるもののまだのどかな生活を楽しんでいる頃の作品。風雨の一夜が明けての、朝の感慨。「雨まばら」だから雨はたいしたことなかったのでしょうが、春の嵐が過ぎ去った翌日、二日酔いのものうさの中で、「海棠の花は無事です」という侍女の声にふと疑いを持つ詞人の想いが物憂さの中にも軽やかに歌われています。若い夫婦の会話と見、海棠は彼女自身を暗喩していると読むとなかなかに艶やかな詞となります。(「春晚」と題する本もある)
・この詞は次の詩の情景をふまえてていると思われます。
「春曉」 孟浩然
春眠不覺曉 處處聞啼鳥
夜來風雨聲 花落知多少
「懶起」 韓偓
百舌喚朝眠 春心動幾般
枕痕霞黯澹 涙粉玉闌珊
籠繡香煙歇 屏山燭焰殘
暖嫌羅襪窄 瘦覺錦衣寬
昨夜三更雨 今朝一陣寒
海棠花在否 側臥捲簾看
昨夜三更(真夜中)の雨、今朝一陣の寒あり。
海棠の花の在りや否や? 側に臥し簾を巻きて看る。
《訳詩》
初めて夫と過したの夜激しさと、その後の自分の変わりようは判らないのかしらという思いを詠っているとの解釈で訳しています。
後の眠りは深くとも酔いまだ消えぬ床の中
物憂きままに尋ぬれば
海棠も変わりしことは何もなし
まことに知るや知らざるや
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