2021年5月3日月曜日

21-南歌子・昔に似ず

 
  南歌子   李清照

天上星河轉
人間簾幕垂。      (簾=帘・翠)
涼生枕簟淚痕滋      (淚=涙)
起解羅衣聊問、夜何其? 
       (=起解羅衣、聊問夜何其)

翠貼蓮蓬小
金銷藕葉稀。       
舊時天氣舊時衣
只有情懷不似、舊家時!
 
        (=只有情懷、不似舊家時)
      ( )内は異本

《和訓》   

天上 星河転じ
人間(じんかん) 簾幕(たれぎぬ)を垂る
涼は枕簟(まくらべ)に生じて涙の痕の滋し
起きて羅衣(うすぎぬ)を解きつつ、聊(いささ)か問ふ、
夜の何其(いかばかり)ならんやと。

(みどり)貼る蓮蓬(はちす)の小さくして
金鎖の藕葉(はちすは)は稀なり
旧時の天気 旧時の衣なれど
只だ旧家時(むかし)に似ざる情懐の有るのみ。


《語釈》・天上:天の上の。空の。「人間」と対。 
・星河:銀河。
・轉:移動して。転じて。時間が経つ。 
・人間:人の世。じんかん。
・簾(帘)幕:カーテン。 
・涼生:涼しい風が吹き始めたこと。
・簟:たかむしろ。夏物の竹製の敷物。 
・痕:涙のあと。痕跡(こんせき)。
・滋:生じる、生える。増える、増す。しげし。 
・起解:起きてぬぐ。
・羅衣:うすものの衣服(夏物)。
・聊(いささか):差し当たり。雑談する。
・夜何其:「夜如何其」(如何(いかん):どのようであるか)・どれほど更けているのか。(いつになったら夜が明けるのか)。眠れないでいることを言う。 
・其:推測の語気。
・翠貼:翡翠(エメラルド)を貼り付けた。 
・蓮蓬:ハスの花托。
・金銷:金糸(金箔をおいて)で縫い取りをした。
・藕葉:ハスの葉。・稀:まばらな。少ない。まれ。
・「翠貼蓮蓬小 金銷藕葉稀」は間着の模様の描写。豪華な「翠」「金」をならべ、それを「小」「稀」として、豪華絢爛と言うものではなく、華やかさのなかに上品さをもっていて、それはまた、夫と過ごした生活を語るものでもあったでしょう。蓮を好んだ彼女の愛着のある着物でもあったでしょう。
・舊時:むかしの。以前の。「舊」を三回繰り返し強調し、リズムを作る。
・天氣:天の気配。自然の様子。季節。 
・舊時衣:以前のままの衣裳。
・只有:ただ、それだけが、…だ。 
・情懷:心の中に思うこと。所懐。
・不似:似ていない。違う。 
・舊家:以前の。昔の。

《詩意》
時は移ろい、天上界は、秋の銀河が現れ、人の世は、窓のカーテンを降ろす時節となりました。
涼しい風が吹き始め、夏物の枕や敷物には悲しみの涙のあとが多く目立ちます。
長くなった夜に寝付かれないまま、起きあがり、夏物の着物を脱いで合いの着物と着替えながら侍女に尋ねます、
「いつになったら夜は明けるのでしょう」と。
 
間着の翡翠のハスの実の刺繍は、小さいものですが、昔の光を留めています。
金糸の縫い取りのハスの葉は、なかなかに稀なもので、昔を懐かしむ気持ちを起こさせます。
こうして天地の季節が以前と同じように移ろい、着る衣裳も昔に変わるわけではありませんのに、
ただ、気持ちだけは、夫亡き後は、以前とは、まるで違ってしまいました。

《鑑賞》
・いたづらにすぐる月日をかぞふればむかしをしのぶねこそなかるれ金葉集師頼

《訳詩》
 七夕の夜
秋の空には天の川
私は独りカーテン引いて
涼しさの増す寝枕に涙の痕を加えてる
薄い衣の肌寒く
深まる夜を問い嘆く

蓮の緑の小さな実
金色の葉の刺繍も褪せて
あの日の空に独り居てあの日の着物つけてみる
なのに思いは添い寝した
あの日あの夜に似もしない

 

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