2021年5月4日火曜日

追補漢詩5 曉夢

 
  曉夢   李清照
曉夢隨疏鐘, 飄然躡雲霞。
因緣安期生, 邂逅萼綠華。
秋風正無頼, 吹盡玉井花。  (元績=無頼)
共看藕如船, 同食棗如瓜。
翩翩坐上客, 意妙語亦佳。  (坐=座)
嘲辭鬥詭辯, 活火分新茶。  (鬥=闘)
雖非助帝功, 其楽莫可涯   (莫可=何莫)
人生能如此, 何必歸故家。
起來斂衣坐, 掩耳厭喧嘩。
心如不可見, 念念猶咨嗟。   (如=知)
            ( )内は異本

暁の夢 疎鐘に随ひ
飄然(へうぜん)として雲霞を()み、
安期生に因縁して
萼緑華に邂逅(かいこう )す。
秋風は正に頼る無く
玉井の花を吹き尽くす。
共に看る(はちす)は船の如く
同じく食する(なつめ)(うり)の如し。
翩翩(へんべん)たり坐上の客
意は妙にして語も亦た佳なり。
嘲辞 詭弁を闘はし
火を活かして新茶を分かつ。
帝功を助けざると雖も
其の楽みは(はて)る可く()く、
人生 能く此くの如くなれば
何ぞ必ずしも故家に帰らん。
起き来って衣を(おさ)めて坐し
耳を(おほ)ひて喧嘩を厭ふに
心は見るべからさる如く
念念 (なほ)咨嗟(しさ)す。



・疏鍾・・まばらな鍾の声。
・飄然・・ふらりとやって来るさま。こだわらないさま。
・躡・・そっと足を運ぶ。
・因緣・・由来。
・安期生・・千歳の長生を得たという、秦時代の仙人。秦の始皇帝が長生の教えをこうために謁見したが、蓬莱山に捜しにくるようにといい、姿をけしてしまった。金液の服用により長寿を得たと伝えられる。李少君(安期生の弟子)は安期生に瓜のような大きなナツメをもらって食べて長寿を得たという。
・萼緑華・・古代の伝説中の南山の美少女、仙女。
・邂逅・・思いがけなく出会うこと。めぐりあい。
・無頼・・頼みにするところのないこと。
・玉井花・・韓愈の詩「玉井蓮詩」に「太華峰頭玉井蓮、開花十丈藕如船」"の句がある。
・藕・・蓮(はす)。ここは蓮の葉。「如船」は韓愈の詩による。
・棗・・ナツメの実。李少君の故事による。
・翩翩・・軽やかにひるがえるさま。ひらひら。かるがるしいさま。
・嘲辞・・あざけりの言葉。お茶比べの言葉であろう。
・詭弁・・間違っていることを、正しいと思わせるようにしむけた議論。
・活火・・「茶須緩火炙、活火煎」
・分新茶・・宋代の分茶という遊び。抹茶にお湯を注ぎ、茶筅で泡を立て花や動物などを図案を作り出す遊び。宋では新茶の季節に必ず「斗茶(闘茶)」が行われ、范仲淹の詩では「勝者登仙不可攀、輸同降将無窮恥」(勝てば、仙人になったように偉くなり、近よりがたい。負ければ、投降した将のようにその恥は窮まりない。)と詠われている。
・斂・・おさめる。斂衣は装いを整えるの意。
・喧嘩・・騒がしさ。
・猶・・なお、いまだに。
・咨嗟・・なげき嘆息すること。


【詩意】
(喧騒の時代にあって幻想的な中に身を置く冥想的詩篇。目覚めれば国家についても身の上についても辛く悲惨な状況にある。)

明け方に見た夢は まばらな鍾の音に乗って
ふらりと雲霞の中に入り込み、
千歳の長生を得た安期生に因み
美少女の仙女萼緑華に巡り逢いました。
秋風がちょうど無法にも
玉井の蓮の花を吹き尽くしています。
共に看る蓮の葉は大きくまるで船のよう
同じく二人で食べる棗も瓜の如くに大きいのです。
軽やかな坐上の客は
気持ちは言葉で表せないほどすばらしく言葉もまた美しいのです。
茶の善し悪しをあれこれと論じ比べ合い
湧かしたお湯を注いで新茶を楽しみます。
こんな楽しみが帝の功を助けることはないといっても
終わるはずはなく、
人生も都合よくこのようであれば
どうして必ず故郷に帰ろうと思うでしょうか。
目覚めた後、起きなおって装いを整えて坐ってみますが
世の中の喧騒は耳をおおうばかりでいやになります。
心の中は実際には見ることもできないのですが
その思いにただただため息をつくばかりです。



参考
  玉井蓮詩  韓愈
 太華峰頭玉井蓮,
 開花十丈藕如船。
 冷比雪霜甘比蜜,
 一片入口沈痾痊。
 我欲求之不憚遠,
 青壁無路難夤緣。
 安得長梯上摘實,
 下種七澤根株連。 

 

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