2021年5月3日月曜日

24-鷓鴣天・桂花


  鷓鴣天
    桂花

暗淡輕黃體性柔    (黃=黄)
情疏跡遠只香留
何須淺碧深紅色   (深=輕)
自是花中第一流

梅定妒
菊應羞
畫欄開處冠中秋   
騷人可煞無情思   (煞=殺)
何事當年不見收

      ( )内は異本

《和訓》   
(ひそやか)に淡(あわ)く 軽(かろ)き黄(きのいろ)にして 体性(すがた)の 柔(しなや)かなり
情の疎(そ)にして跡遠かれど 只だ香の留まれり
何ぞ須(すべから)く碧(みどり)の浅く 紅色の深かかるべき
(おのずか)ら是れ花中の第一流なり。

梅は定めて妬(そね)
菊の応(まさ)に羞(は)じるべし
画欄 開く処 中秋に冠たり
騒人 情思無きをを煞(ころ)す可きに
何事ぞ 当年 見るを収めざる


《語釈》・桂花:銀木犀の花。「桂」は木犀(モクセイ)、金木犀は「丹桂」。
・暗:ひそかな(に)、ぼんやりした。
・淡:(色が)淡い、薄い。
・輕黃:かろやかな黄色。
・體:スタイル。・性:事物の性質、傾向。
・體性:姿、様子。
・柔:軽くてしなやかな。柔和な、優しい。
・情:様子。こころ。・疏:まばらにする。乏しい。
・跡:残るしるし。痕跡。徴候(ちようこう)。
・情跡疏遠:心の動きが途絶えがち。
・只:ただ。もっぱら。ひたすら。
・何須:なんぞ、すべからく‥‥べし。
・須:当然
・自是:これにより。当然にそうです。
・定:さだめて。きっと。必ず。・妬:嫉妬(しつと)する。ねたむ。
・応:まさに‥べし。当然…すべきだ。
・羞:恥じいる、恥辱と思う。
・畫欄:美しく彩った飾のついた欄干、開くとあるから飾りの付いた窓か。
・冠:最も優れているさま。最高と認められるさま。「冠たる」
・中秋:中秋節。旧暦8月15日。なお、仲秋は秋の半ば、陰暦八月。
・騷人:詩人。文人。風流人。騒人墨客。*ここは屈原を指す。屈原の楚辭「離騷」には多くの草木の名が載せられているが、桂花の名がない。
・煞:ころす。減じる、そぐ。
・何事:どうしたこと。何ということ。とがめだてするときなどに用いる。
・当年:当時、あの頃。その年、同年。

《詩意》

ぼうっと翳むように淡くうっすらとした黄色い花をつけ、その姿がしなやかな木犀(モクセイ)。
その花の形が美しいわけでもなく、花の色も淡く人を誘うものでもありません。しかし、その香りは濃く、辺りに留まります。
どうしてぜひに碧は浅く紅色は深くしなければならないでしょう。
木犀はこの香りによって花の中でも第一級に属します。

百花に先立ち春早くに咲く姿容秀麗の梅や、秋深まって花の最後を飾る清雅秀美な菊も、それぞれに、木犀を妬み羞じることでしょう。
戸を開きおばしまに出て広がる庭を眺めますと、ちょうど中秋に咲く木犀は花中で最も優れているといえましょう。
楚辭「離騷」に多くの草木の名が載せながら、この桂花の名を記しておりませんが、屈原は木犀の姿の情趣に欠ける点を減ずべきでした。
どうして、楚辭を詠まれる時、この花の好さを見とどけなかったのでしょうか。

《鑑賞》
彼女の愛した梅や菊はその花の色や風韻は優れるものの、濃厚な芳香は木犀の花が優れると詠う。
屈原は首都が陥落して将来に絶望し、石を抱いて汨羅江に入水自殺したが、その強烈な愛国の情から生まれた楚辭の『離騒』にこの花の香りが採り上げられていないことに対しての彼女なりの補足・批評だったのでしょうか。
青州での作品といわれますが、絶望の中で彷徨った彼女と屈原の運命を重ね合わせるとまた違った感慨が生まれます。
なお、中国では「香りの無い花は心の無い花」と、香りのある花が重んじられ、桂花(木犀)のほか、梅、菊、百合、茉莉花(マツリカ・ジャスミン)、水仙、梔子(くちなし)を七香(しちこう)として好んだといいます。

  「もくせい」  金子みすゞ
 もくせいのにおいが
 庭いっぱい。

 おもての風が、
 ご門のとこで、
 はいろか、やめよか、
 そうだんしてた。


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