2021年5月5日水曜日

朱10.鷓鴣天 (獨倚闌干晝日長)


 鷓鴣天      朱淑眞

獨倚闌干晝日長、紛紛蜂蝶斗輕狂。
一天飛絮東風惡、滿路桃花春水香。

當此際、意偏長、萋萋芳草傍池塘。
千鐘尚欲偕春醉、幸有荼蘼與海棠。



《和訓》
独り欄干に倚りて昼日長く、紛紛たる蜂と蝶は斗(たちまち)に軽く狂へり。
一天に絮を飛ばして東風の悪しく、路に桃花の満ちて春の水香る。

此の際に当たり、意(こころ)偏(ひとへ)に長く、萋萋たる芳草傍(かたへ)には池塘あり。
千鐘の尚ほ偕(とも)に春に酔はんと欲せば、幸ひに荼蘼と海棠も有り。



《語釈》
・紛紛:入りまじって乱れるさま。
・斗:たちまち(忽)に。
・輕狂:さわぐ。落ち着きがない。
・一天:空一面。満天。
・絮:草木の種子についているわた毛。
・飛絮:飛んでくる柳の綿毛。飛ぶ柳絮。春の一時期の象徴。
・東風:春風。
・滿路桃花春水香:王維(699-759)の「桃源行」に「春來遍是桃花水、不辨仙源何處尋」の句がある。「春来つては遍く是れ桃花の水、仙源を弁(わきま)へず何れの処か尋ねむ(春が来るとどの流れも桃の花びらを浮かべて流れる。これでは桃源郷を辿ろうにもどの流れをさかのぼればよいのだろう)」
・偏:一方に寄る。かたよる。ただそれだけで他のものがないさま。
・長:気持ちなどがのどかでのんびりしているさま。
・萋萋:草ぼうぼうの、生い茂った。
・芳草:萌(も)え出たばかりの、香るばかりの若草。
・池塘:池のつつみ。後日になるが朱熹(1130年-1200年)の「偶成詩」に「未覺池塘春草夢」の句がある。
・千鐘:大量。大量の酒。「蓋聞、千鐘百觚、尭舜之飲也。唯酒無量、仲尼之能也」(抱朴子)
・尚:ますます。よりいっそう。
・偕:一緒に、共に。
・幸:幸いに、幸運にも。
・荼蘼:バラ科の落葉低木。花は白色、香気。
・海棠:バラ科の落葉低木。紅色の五弁花。


《詞意》
春の日永にひとり欄干に身をよせていると、蜂と蝶が落ち着きなく入り混じって飛んでいる。
空一面に柳の綿毛を飛ばして春風は激しく吹き、路には桃の花びらが散り満ちて春の川も香っている。

この春の只中にあって、こころはただのどかで、生い茂った若草のかたわらには春の池がひろがる。
充分な酒にますます一緒に春に酔おうと思うと、好いことに荼蘼と海棠も咲いている。 

 

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