2021年5月4日火曜日

43-慶清朝慢・春の宴

 
 慶清朝慢    李清照

禁幄低張
雕欄巧護     (雕=彤)
就中獨佔殘春。  (佔=占)
客華淡佇     (客=容)(淡佇=澹沱)
綽約俱見天真。
待得群花過後
一番風露曉妝新。 (妝=粧)
妖嬈艷態     (=妖嬈態)
妒風笑月     (妒=妬)
長殢東君。

東城邊
南陌上
正日烘池館
競走香輪。    (競=竟)
綺筵散日
誰人可繼芳塵?
更好明光宮殿   (殿=裏=裡)
幾枝先近日邊勻  (近=向)
金尊倒
拚了盡燭    (盡=畫)
不管黃昏。
    (管=愛)
       ( )内は異本
     
《和訓》
禁幄(きんあく) 低く張り
雕欄(ちょうらん) 巧みに護りて
なかんずく残春を独占す。
客 華やかにして 淡佇し
綽約(しゃくやく)として 倶(とも)に見ゆるは天真なり。
群花の過ぎし後を待ち得るに
一番の風露に 暁の粧(よそおい) 新たなり
妖嬈(ようぜう)たる艶態
風を妬み 月に笑ひ
長く東君に殢(しなだ)る。

東城の辺(ほとり)
南陌(なんぱく)の上
正に日は池館を烘(てら)
競って香輪を走らす
綺筵の散ずる日
誰が人か芳塵を継ぐ可き
更に明光宮殿の好しきに
幾枝か先ず日近き辺り匀(ととの)
金樽 倒れ
(ま)ひ了(をは)り 燭尽きしが
黄昏るるも管(かま)わず。


《語釈》
・禁幄:禁裏(宮中)の帷(とばり、カーテン)。・幄(あく):とばり
・雕欄:彫り物を施した立派な欄干。転じて、立派な御殿。これらは牡丹の花を守る囲いを表わす。
・就中:なかんずく。中でも、多くの物事の中でとりわけ。特に。
・客:牡丹の花。(訪れ来る人。彼女自身をもさすか。)
・華:つややかに華やぐ。
・淡佇:あっさりしていて品のあるさまにたたずむ。
・綽約:姿がしなやかでやさしいさま。しとやか。たおやか。
・天真:自然のままで飾りけのないこと。無邪気な、単純な。
・妖嬈:あでやかでなまめかしいさま。
・妒=妬:ねたむ、嫉妬する。
・殢:つかれくるしむ。まとわりつく。とどまる。「恋」に同じともいう。
・東君:春の神。(日神、太陽。亭主、主人。) 
・陌:街道。
・池館:庭苑の池のほとりの休息所。
・烘:てらす、あきらか。火をたく。
・香輪:香車。車の美称。
・綺筵:綺麗なむしろ。酒宴の席。
・芳塵:散る花びら。春の芳しい気配。
・明光宮殿:長安にある武帝の時代に造営された明光宮。ここは汴京の宮殿を指す。
・近日邊:皇帝の身辺。陽射しのあたっている所。
・勻-匀:ととのふ。ひとし。「匂」とよむか。
・金樽:金の盃。酒杯。
・拚:まふ(舞)。てをうつ。ひるがへる、ひらひらと飛ぶ。塵を掃ふ。
・不管:構わない。気にかけない。・管:つかさどる。とりしきる。かまう。

《詩意》
宮殿の帳は低く張り巡らされ
彫り深い欄干が 巧みにその周りを護るように囲んで
ひときわ名残の春を独り占めしているようです。
花は つややかに華やぎ 品あるさまにたたずみ
しなやかな優しさ中にもあどけなさをみせています。
群れ咲く花の盛りを過ぎるのは待って
一番の風が吹いて 暁の露に濡れて よそおいを新たにしています。
そのあでやかでなまめかしい姿は
吹く風をうらみ 月に笑いかけ
春の陽射しをながく浴びて疲れさせるのです。

東のお城の周りにも
南の大通りにも
また苑の池のほとりの日に照らされる館のあたりにも
みな競うように花見の車を走らせていました。
あちらこちらに華やかな酒宴の席が見えましたが
芳しく散る花びらを誰が引き継ぐことが出来るでしょう。
それに比べいっそう御殿はすばらしく
幾枝か先ず陽射しのあたる(帝の)辺りがととのっていました。
金の盃は空になって倒れ
舞うことも終わり 燭火が尽きてしまっても
黄昏になったことを気にもかけないほどの楽しさです。


《鑑賞》
 隋から唐の時代に牡丹が尊ばれ、寺院などに牡丹園が造られ、それ以降、牡丹は花の王様としての地位を確立し、「看遍花無勝此花(あまねく花を看るも此の花に勝るものなし)、萬萬花中第一流(徐夤)」と絶賛されています。
白居易も「買花」や「牡丹芳」で長安の人々が牡丹の時期を待ちわび、都をあげて芳しい牡丹花の話題に熱中したことを書き残しています。当時は、牡丹の見ごろとされた3月の15日前後に花見が盛んにおこなわれ、宮廷では「花くらべ」(闘花)が催され、「皆千金を以て名花をかい、庭苑の中に植え、以て春時の闘に備えた」といいます。
「花開き花落つ二十日。一城の人皆狂うが如し(白居易)」「三条九陌花時の節、万馬千車牡丹を看る(徐凝)」と花見に狂奔したのでしょう。
《賞牡丹》劉禹錫
庭前芍藥妖無格,池上芙蕖淨少情。
唯有牡丹真國色,花開時節動京城。


《訳詩》

 牡丹を愛でて
懇ろに囲われた垣の中
牡丹花は遅き春日を一人占め
華やかにほんのりと
なよやかにおもいのままに
春の花終るを待ちて
風に揺れ露置いて咲き誇る
妖しくも艶やかに
風妬み月笑い
春の日を包み込む

東の街も南の路も
春のうららに競い合う
花見の宴の賑やかさ
引継ぎ行くは何処の人
帝の宮は好もしく
幾枝の花が咲き匂う
いざ飲まんかな
ともし火尽きて
黄昏れるともかまわずに


0 件のコメント:

コメントを投稿