2021年5月5日水曜日

朱21.念奴嬌 二首催雪 その一


 念奴嬌     朱淑眞
  二首催雪
  (その一)

冬晴無雪、是天心未肯、化工非拙。
不放玉花飛墮地、留在廣寒宮闕。
雲欲同時、霰將集處、紅日三竿揭。
六花翦就、不知何處施設。

應念隴首寒梅、花開無伴、對景真愁絕。
待出和羹金鼎手、為把玉鹽飄撒。
溝壑皆平、乾坤如畫、更吐冰輪潔。
梁園燕客、夜明不怕燈滅。


この詞はうまく読めない。和訓も詞意も覚束無いままである。


《和訓》
  「雪を催(うなが)す」(きざせる雪)
冬晴れて雪無く、是れ天心未だ肯へんぜずも、化(造化)の工(たく)みにして拙(つたな)きにあらず。
玉花地に飛び墮ちて放たれず、留め在るは広寒宮の闕。
雲の同時に欲するは、霰の将(はた)集まる処なれど、紅日は三竿掲(かか)ぐ。
六花の翦り就くは、何処の施設なるかを知らず。

応に隴首の寒梅を念ひ、花開くも伴ふ無きに、景に対し真に愁絶す。
待ち出づるは和羹の金鼎の手、為(まさ)に玉塩を把りて飄撒せんとす。
溝壑皆平らかに、乾坤画の如くして、更に吐くは冰輪の潔。
梁園の燕客、夜明けて灯の滅するを怕(おそ)れず。


《語釈》
・催:催促する。もよおす。きざす。
・天心:空のまんなか。空の中心。天の心。天子の心。
・化:自然が万物を育てる力。化育。造化。[花]。
・工:技術、技能。…に巧みだ、長じる。上手なさま。巧妙。
・化工:自然の造化。
・玉花:美しい花。雪。
・留在:留め置く。
・広寒宮:月の中にあるという宮殿。月宮殿。広寒府。
・闕:宮門の両わきに築いた台。その上を物見とした。
・霰:あられ。雪と雹(ひよう)との中間の状態のもの。
・將:はた。また。あるいはまた。もしくは。 (ひきいる。ひきつれる。伴う。)
・紅日:真っ赤な太陽。多く朝日をいう。
・三竿:〔竹竿(ざお)三本つなぎあわせた程度の高さの意〕日月が空のかなり高い所にあること。
・揭:掲(かか)げる。高く上げる。かざす。
・六花:〔六弁の花の意から〕雪の異名。りっか。
・翦就:(翦裁と同様に)美しい様をいうか。・翦 きる。はさむ。・就 つく。つける。
・施設:建造物。ほどこし、しつらえる。
・應:当然…すべきだ。
・隴首:丘の上。隴山(甘肅省と陝西省の境の大きな山)のほとり。隴頭。辺境にあるとりでで、蒼茫・悲涼の感情をもたらす。
・真:確かに、本当に。
・愁絕:ひどく愁える。
・和:なごむ。やわらぐ。引き分ける。
・羹:スープ。あつもの。
・鼎:食物を煮るのに用いた金属の器。煮炊き用の器スープ。あつもの。
・為:まさに‥んとす。
・把:握る、手に持つ。
・鹽:塩。
・飄:上よりひるがへり落ちる。
・撒:まく。ばらばらに散るように落とす。
・溝:みぞ。せせらぎ。
・壑:谷間、山あいの池。
・乾坤:天と地、宇宙。
・冰輪:冰=氷。月の異名。冰鏡。北宋の詩人の孔平仲(1044?~?))の詩に「團團冰鏡吐淸輝」(円き月は淸き輝きを吐く)とある。
・吐:はく。ひらく。
・潔:きよい。心が淸廉である。
・梁園:河南省東部、商丘の東にある、漢代に梁の孝王が築いた園。修竹園。
・燕客:宴客。・燕:さかもり。さかもりする。やすむ、くつろぐ。
・怕:恐れる、心配する、案じる。


《詞意》
冬空は晴れていて雪の気配は無いですが、
天の心がまだ雪を降らす気はなくとも、自然の営みが拙いわけではありません。
雪は放たれることなく、月の宮殿の門に留め置かれています。
雲は、また霰を集まめようとしていますが、日は空高く上がっています。
雪が美しくふっているのは、何処のあたりなのでしょう。

ただ隴山のほとりに咲く寒梅を想い、花開いても誰もいない景に対して愁いに心痛めるばかり。
それはまるで、温かなスープの入った器を持つ手が、まさに美味しい塩をぱらぱら撒く時を待ち受けるよう。
せせらぎも池も静まり、あたり一帯はまるで絵のようで、その上月は清らかな光を放っています。
庭にくつろぐ客は、夜明けて灯が消えるのを案ずる気配もありません。


《参考》
隴首について。
  「探春」  戴益(宋・生卒年不詳)
 盡日尋春不見春 尽日春を尋ねて春を見ず
 芒鞋踏遍隴頭雲 芒鞋踏みて遍(あまね)し隴頭の雲
 歸來適過梅花下 帰り来たりて適(たまたま)梅花の下を過ぐ
 春在枝頭已十分 春は枝頭に在りて已に十分なり

梁園について。
  盛唐の詩人、高適(702?-765)の「宋中十首の其一」         
 梁王昔全盛、(梁王 昔 全盛にして)
 賓客復多才。(賓客 復 多才なりき)
 悠悠一千年、(悠悠一千年)
 陳迹惟高臺。(陳迹(なごり)には 惟 高台あるのみ)
 寂寞向秋草、(寂寞として秋草に向かへば)
 悲風千里來。(悲風 千里より来たる)
もう一首。
  「梁園吟」  李白(701-762)
 我浮黃雲去京闕,掛席欲進波連山。
 天長水闊厭遠涉,訪古始及平臺間。
 平臺為客憂思多,對酒遂作梁園歌。
 卻憶蓬池阮公詠,因吟淥水揚洪波。
 洪波浩蕩迷舊國,路遠西歸安可得。
 人生達命豈暇愁,且飲美酒登高樓。
 平頭奴子搖大扇,五月不熱疑清秋。
 玉盤楊梅為君設,吳鹽如花皎白雪。
 持鹽把酒但飲之,莫學夷齊事高潔。
 昔人豪貴信陵君,今人耕種信陵墳。
 荒城虛照碧山月,古木盡入蒼梧雲。
 梁王宮闕今安在,枚馬先歸不相待。
 舞影歌聲散綠池,空餘汴水東流海。
 沉吟此事淚滿衣,黃金買醉未能歸。
 連呼五白行六博,分曹賭酒酣馳輝。
 歌且謠,意方遠。
 東山高臥時起來,欲濟蒼生未應晚。


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