2021年5月1日土曜日

14-淸平樂・梅花三態

 
 淸平樂    李清照

年年雪裡   (裡=裏)
常插梅花醉
挪盡梅花無好意  (挪=揉、挼)
贏得滿衣清淚   (淚=涙)

今年海角天涯
蕭蕭兩鬢生華
看取晚來風勢    (晚=晩)
故應難看梅花

       ( )内は異本

《和訓》   

年年は雪の裏(なか)に、
常に梅花を挿して酔ひたりき。
梅花揉(も)み尽くしても好(よ)き意(おも)ひ無く、
(あまり)得たるは、淸き涙の衣に滿つるのみ。

今年は 海角(うみのさき) 天涯(てんのはて)、
蕭蕭(わびしく)も 兩鬢に華(しらが)の生(あ)れて、
晩来の風勢を看取る。
故に応に梅花を看るに難(かた)からむ。


《語釈》

年年:毎年。
裏・裡:中がわ、内部。中へ。
梅花醉:(頭に挿した)梅の香に酔いうっとりとなる。
挪盡:もみ尽くす。手でもみくちゃにする、もてあそぶ。
無好意:好い心持ちがしない。おもしろくない。
贏得:手に入れる。 
・贏:勝つ。
海角天涯=天涯海角(てんがいかいかく):空の果て、海の果て。
・海角:岬
蕭蕭:悲しみに沈んだ、うらさびれた、蕭(しよう)条たる。
鬢(びん):もみあげ、頭の左右側面の髪。
華:白髪まじりの。
晩來:おそくなってから。
風勢:風の勢い。風向き。情勢。
故:だから、それゆえに。
應:…するのがいいだろう。まさに…べし。当然…すべきだ。

《詩意》
新婚のころは毎年、夫と二人雪の中へ梅を見に出ていきました。頭には梅の花を飾り、その梅の香に酔いしれ、うっとりといい気持ちになったものです。
 夫と別居していた折は、一人梅の花をもてあそんでみても、楽しくもなく、手に残ったのは、衣をそっくり清らかな涙で濡らしてしまう悲しみばかりでした。

 今年、夫と死別して、地の果て天の涯を彷徨うようにると、寂しくも両鬢に白いものが混じるようになりました。
 そんな中、たそがれになっての風の様子をじっと見ております(また、人生のたそがれになってのわが身の置かれたありさまを考えます)。
それゆえ、梅の花を見るのは、耐え難く、難しいと思うのです。


《鑑賞》
老年期になり、梅の花の過去の思い出に浸り、風に散った花を思いながら探梅に行く気力も情勢もないことを詠う。梅花を巡る三態が巧みに詠われています。

 

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