2021年5月5日水曜日

朱17.菩薩蠻 秋

 
 菩薩蠻     朱淑眞
   秋

秋聲乍起梧桐落、蛩吟唧唧添蕭索。
欹枕背燈眠、月和殘夢圓。

起來鉤翠箔、何處寒砧作。
獨倚小闌干、逼人風露寒。



《和訓》
  「秋」
秋声起きし乍(なが)らに梧桐の落ち、蛩(こおろぎ)喞喞と吟じて蕭索を添ふ。
枕を欹(そばだ)て灯を背にして眠るに、月は和(おだ)やかに夢残して円(まどか)なり。

起き来たって翠箔を鉤(とど)むれば、何処(いずこ)ならむ砧打つ音の寒し。
独り小さき闌干(おばしま)に倚(もた)れしに、人を逼(せ)むるは風と露の寒さなり。


《語釈》
・秋聲:秋の声。秋の近づく気配。
・乍:…したばかり。…したかと思うと急に。
・梧桐:アオギリ。落葉高木。鳳凰は、この木にしか止まらないと言われる。・「梧桐一葉」「梧桐一葉落つ」は、あおぎりの一葉が落ちたことで秋の到来を知ることができるという意から、ものの衰えのきざしの意。また、些細な出来事から、全体の動きを予知することの例えでもある。また、朱熹(1130-1200)の「偶成」に「未だ覚めず池塘春草の夢、階前の梧葉 已に秋声」がある。
・蛩吟:こおろぎが鳴く。・蛩:こおろぎ。蟋蟀 。・吟:歌う。
・唧唧:喞喞(ショクショク)虫や小鳥などの細く小さい声が入り混じった声を表わす。・喞:なくすだく、おおくの小さき声がやかましい。
・蕭索:ものさびしいさま。蕭条。
・欹枕:マクラをそばだてて。マクラを斜めにして。椅子に坐るのではなくて、寝ころんで肩肘を立てているようにしているさま。白居易(772-846)の「香爐峯下新卜山居草堂初成偶題東壁」に「遺愛寺の鐘は枕を欹(そばだ)てて聽き、香爐峰の雪は簾を撥(かか)げて 看る」がある。
・和:なごやか。にこやか。おだやか。やわらか。
・殘夢:見残した夢。目覚めてからも、なお心に残る夢。また、明け方近くにうとうとしながら見る夢。
・鉤:簾をとめるかぎ。かぎで引っ掛ける。
・翠箔:翡翠の簾。緑色のカーテン。緑色のカーテンは女性の部屋。
・砧:麻・楮(こうぞ)・葛(くず)などで織った布や絹を槌(つち)で打って柔らかくし、つやを出すのに用いる木または石の台。また、それを打つことや打つ音。
・作:行う、する。
・何處寒砧作:何処から聞こえるのか砧打つ音が寒々しい。
・倚:もたれる、よりかかる。
・闌干:おばしま。廊下や橋などの側辺に、縦横に材木を渡して人の落ちるのを防ぎまた装飾とするもの。てすり。
・逼:追い詰める。迫る。無理矢理…させる、強いる。
・風露:寒い風と、屋外の露。


《詞意》
  「秋」
秋の近づく気配がしたかと思うと急に梧桐の葉が落ち、
こおろぎがり~り~り~とすだいて、ものさびしさを添えています。
枕をそばだて灯を背にして眠ります、
目覚めると月はおだやかにまんまるに照っていて 心にはなお夢が残っているのでした。

起きあがって緑色のカーテンを巻き上げますと、
何処からともなく砧を打つ音が寒々しく聞こえてきます。
独り小さな闌干(おばしま)にもたれますと、
寒い風や露が更に私を攻めたてるのでした。


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