浣溪沙
閨情 李清照
髻子傷春慵更梳 (慵=懶)
晩風庭院落梅初
淡雲來往月疏疏
玉鴨薰鑪閒瑞腦 (閒=閑)
朱櫻斗帳掩流蘇 (斗=鬥)
遺犀還解辟寒無 (遺=通 還=还
辟=闢)
( )内は異本
《和訓》
淡き雲の来往きて月は
玉鴨の香炉は瑞腦を
朱桜の
遺犀の還た解くらむか、寒
《語釈》・閨情(この副題のあるものもある)「閨情」とは女性の情愛
・髻子ケイシ:もとどり(髪の毛をまとめて頭の上で束ねた所、またその髪)。たぶさ。もとゆい。子は助辞。・傷:悲しむ。
・閒:安、忙の反
・閑(閒に通用)はひま、しづかと訓。「閑」とするもあり。
・玉鴨薰鑪:玉は美称、鴨を彫刻してある香炉
・瑞腦:香の名、香材。
・朱桜:(朱利桜しうりさくら)・ははか・かにわざくら・ミヤマイヌザクラ。桜桃ならば「ゆすらうめ・さくらんぼ」。この瑞々しい色とつややかさは、若い女性の口もとに擬えられる。
・斗帳:とばり、たれぎぬ。 斗(マス)の覆いに似たるにより斗帳の字を用いる、カーテン。ここは床帳(ベッドのカーテン)。
・流蘇:五彩の絲を雑へて旌旗(セイキ。 はた、のぼり)、幕につけるふさ。「流蘇の帳」は、ふさの飾りが付いた幕(カーテン)。華麗で艶めかしいベッドを想起する。
・遺犀:「辟寒犀」 珍宝。「【犀角辟寒】 《開元天宝遺事》交趾(こうち=ベトナム)犀の角(つの)一株を進む。色金の如し。殿中に置くや、暖気人を襲う。上(唐玄宗)其の故を問う。使者対へて曰く「此れ寒を辟(はら)ふ犀なり」と。開元二年(七三○)冬至」による。
・還:かえる、また、めぐる。なお、依然として。
・辟:ひらく、追い払う。避にも通ずか。「通犀」「闢」とするもあり。
《鑑賞》
この詞は安らいだ生活のあった結婚間も無くの頃か、易安居士と号し十年程過ごした青洲での作品であろう。
けだるくもゆったりした暖かな春の晩の情感が詠みこまれている。
先ずは、長恨歌の「芙蓉帳暖度春宵 春宵苦短日高起」が思い出される。
日本の歌の中で思い出されるのは次のようなもの。
うつり香のうすくなりゆくたき物の
くゆる思ひにきえぬべきかな(後拾遺)清原元輔
風かよふ寝ざめの袖の花の香に
かをるまくらの春の夜の夢(新古今)俊成女
夜の帳にささめきあまき星もあらむ
下界の人ぞ鬢のほつるる (みだれ髪)晶子
宋代の女流詞人の紹介と鑑賞のブログ。 「第一女詞人」と呼ばれる李清照の詞の鑑賞とその生涯の紹介のページです。 さらに「断腸詞人」と呼ばれる朱淑眞、「薄命詞人」と呼ばれる呉淑姫の作品を紹介しています。
2021年5月1日土曜日
8-浣溪沙・閨情
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