2021年5月3日月曜日

33-漁家傲・何処に帰るや

 
 漁家傲    李清照

天接雲濤連曉霧
星河欲轉千帆舞
彷彿夢魂歸帝所
聞天語
慇懃問我歸何處。

我報路長嗟日暮  (嗟=磋)
學詩漫有驚人句  (漫=謾)
九萬里風鵬正舉
風休住
蓬舟吹取三山去。


      ( )内は異本
      (「記夢」と題するもある)

《和訓》   
天は雲濤に接し 暁霧に連なり
星河 転ぜんと欲して 千帆 舞ひて
彷彿たる夢魂 帝所に帰す。
天語を聞くに
慇懃に我に問ふ 何処に帰るや と。

我は報ず 路長く日の暮るるを嗟(なげ)
詩を学ぶに 漫(みだり)に人を驚かす句有り と。
九万里の風 鵬(おほとり) 正に挙げんとす
風 住(や)む 休(なか)
蓬舟 吹き取(え)て 三山へ去らむ。


《語釈》・濤:波。 
・連曉霧:雲の大波が、夜明け時のたちこめている霧に繋がっている。 
・星河:銀河。
・千帆舞:多くの星が舞うが如くに輝く。・帆:ここは船の意で星の比喩。
・彷彿:ぼんやりとして明らかでないさま。
・夢魂:夢の中にある魂。夢を見ている魂。
・歸:もとの所へもどる。夢魂が、空を翔け上り、天宮へ行き、天帝の話しかける声を聞く。
・帝所:天帝の居るところ。天宮。
・天語:天帝の声。
・殷勤問我:優しく丁寧にわたしに尋ねかける。
・歸何處:いづこへ かえるや。どこへもどっていくのか。
・報:こたえる。 ・嗟:歎息する。嘆く。
・學詩:詩を学ぶ。詩を勉強して。
・漫:自分勝手であるさま。軽率に。むやみやたらに。
・驚人句:人を驚かすような(秀逸な)作品。
・九萬里風:雄大な風。
・鵬:「荘子」逍遥遊に見える鵬(ほう)という巨大な鳥。
・休住:やむな。休:…をやめよ。…するな。
・住:やむ、停止する。
・蓬舟:さすらう小舟。粗末な舟。李清照(の夢魂)の乗る舟。
・吹取:吹得。
・三山:勃海にあるという神仙の住む蓬莱、方丈、瀛州の三神山。 

《詩意》
大空を見上げると、雲の大波が、明け方、ぼんやりと明るくなってきた霧のかかる空に、波を打ち寄せるように浮かんでいます。
銀河がうねるあたりでは、多くの船(星)が舞うが如くに輝いています。
ぼんやりと夢を見ている私の魂は今天宮へ帰っていきます。
すると、天帝の声が聞こえ、
優しく丁寧にわたしに尋ねかけます。どこへもどっていくのか、と。

わたしは こたえていました。
人生の道のりは遥かなのに、もう日暮れが迫っていることを嘆いています。
詩を勉強しても、むやみに奇想天外な句のみが残されているばかりです。(作者の鬱屈した心情の表れでしょうか。李清照は、詩作には、自信があっても、そのことについては、報われていない、ということを訴えているのでしょうか。)
鵬(ほう)よ、雄大な風を挙げてください。わたしは、それに乗って、高く大きく飛翔したいのです。
私の夢魂の乗っている蓬舟にその風を受けて、神仙の住むといわれている蓬莱、方丈、瀛州の三神山へ行きたいのです。
(夫趙明誠が罷官された後、青州にいたときの作。「夢」を記し、豪放な風格の詞といわれる。) 


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