2021年5月5日水曜日

朱6.謁金門 春半

 
 謁金門      朱淑眞
  春半

春已半、觸目此情無限。
十二闌干閒倚遍、愁來天不管。

好是風和日暖、輸與鶯鶯燕燕。
滿院落花簾不卷、斷腸芳草遠。



《和訓》
春は已に半ば、目に触るる此の情限り無し。
十二の闌干に閒として倚り遍(あまね)くも、
愁ひ来りて 天は管(かかは)らず。

好ろしきは是れ風和やかに日暖かく、鶯鶯燕燕に輸与す。
満院に花落ちて簾卷かず、芳草の遠かるを断腸す。


《語釈》
・春半:春の半ば。仲春。
・觸目:目に触れる物すべて。
・十二闌干:曲がりくねった欄干。九曲の欄干。
・欄干:てすり。高殿の窓辺に寄り添っている。
・閒:安。あいだ、すきま。やすんず、しづか、ゆるやか。へだたり。
・倚遍:じっくりと寄りかかると。高殿の手すりに寄りかかって、遙か彼方を眺めやりながら物思いに耽るさま。・遍:満、完。
・愁來:愁いが起こってきた。「來」は、動詞の後に附く趨勢を表す補助動詞。
・不管:かまわない。意に介さない。
・輸:送る。移す。致す。引き渡す。ゆずる。まける。 
・輸與:譲り与える。負ける。
・滿院:庭一杯。庭一面。「院」中庭。周りに建物がある庭。
・落花:花びらが散っている。落花(の跡)。
・斷腸:腸が断たれるほどに辛い。春が過ぎ素晴らしい気節が過ぎ去る辛さ。
・芳草:春の草。詞では女性を指す場合もある。


《詞意》
春はすでに半ばを過ぎ、目に触れる情景は限りなく趣き深いのです。
幾重にも曲がる欄干のもとに ゆるらかに寄りかかって思いにふけりますと、
愁いが起こってきましたが、天はそんな愁いを意に介しません。

春風は和やかで日差しは暖かく、訪れる鶯や燕たちを包み込んでいます。
庭の一面には花びらが散り敷いていて 簾は巻かれることなく、
春の過ぎ行く辛さを感じるばかりです。


《補》
李煜(りいく)(937年~978年)の詞に同種のものがある。これを踏まえた詞であろう。
  清平楽
      李煜
 別來春半、
 觸目愁腸斷。
 砌下落梅如雪亂、
 拂了一身還滿。

 雁來音信無凭。
 路遙歸夢難成。
 離恨恰似春草、
 更行更遠還生。


0 件のコメント:

コメントを投稿